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東京高等裁判所 平成6年(行ケ)92号 判決 1996年3月07日

神奈川県川崎市幸区堀川町72番地

原告

株式会社東芝

同代表者代表取締役

佐藤文男

同訴訟代理人弁理士

須山佐一

山下一

森定奈美

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官

清川佑二

同指定代理人

徳永英男

花岡明子

渡邉順之

吉野日出夫

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

「特許庁が平成2年審判第17760号事件について平成6年2月24日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

2  被告

主文同旨の判決

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和58年12月12日、名称を「高熱伝導性窒化アルミニウム焼結体の製造方法」とする発明(以下「本願発明」という。)について、特許出願(昭和58年特許願第233938号)をしたところ、平成2年9月4日拒絶査定を受けたので、同年10月4日審判を請求し、平成2年審判第17760号事件として審理された結果、平成6年2月24日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は同年3月28日、原告に送達された。

2  本願発明の要旨

酸素を1重量%以下含む窒化アルミニウムを主成分とし、これにイットリウム、ランタン、プロセオジウム、ネオジウム、サマリウム、ガドリニウム、ジスプロシウムから選ばれる希土類元素の酸化物もしくは炭酸塩の1種以上を希土類元素換算で0.01~15重量%添加した原料を成形、焼成して酸素を0.01~20重量%含む窒化アルミニウム焼結体とすることを特徴とする高熱伝導性窒化アルミニウムの製造方法。

3  審決の理由の要点

(1)  本願発明の要旨は、前項記載のとおりである。

(2)  これに対して、昭和58年特許願第176360号(昭和60年特許出願公開第71575号公報(以下「先願公報」という。)参照)の願書に最初に添付した明細書(以下「先願明細書」といい、この明細書に記載された発明を「先願発明」という。)には、次の事項が記載されている。

<a> 窒化アルミニウムを90重量%以上含有し、

<b> アルカリ土類金属、ランタン族金属及びイットリウムよりなる群から選ばれた少なくとも1種の金属又は該金属化合物(以下「添加剤」という。)を酸化物に換算して0.02~5.0重量%を含有し、

<c> 酸素原子を4.5重量%以下含有し、かつ

<d> 不可避的に混入する陽イオン不純物が酸化物に換算して0.5重量%以下含有する

平均粒子径が2μm以下の窒化アルミニウム粉末を、

<1> 窒化アルミニウムを製造する原料と添加剤とを混合し焼成するか、

<2> 窒化アルミニウムを製造する原料を焼成し、窒化アルミニウムを得、その後添加剤を加えることにより得、

得られた窒化アルミニウム粉末を焼結することにより

<a> 窒化アルミニウムを90重量%以上、

<b> アルカリ土類金属、イットリウム及びランタン族金属よりなる群から選ばれた少なくとも1種の金属の化合物が酸化物に換算して0.02~5.0重量%、

<c> 酸素原子が3.5重量%以下、

<d> 不可避的に混入する陽イオン不純物が金属として0.5重量%以下

含まれ、かつ密度が3.0g/cm3以上である窒化アルミニウム焼結体を得ること、

添加剤であるランタン族金属としては、ランタン、セリウム、プラセオジム(プロセオジウムと同じ。)、ネオジム(ネオジウムと同じ。)、プロメシウム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム等が使用できること、

実施例として酸素含有量が1.1又は1.3重量%の窒化アルミニウムに添加剤を混合して、得られた窒化アルミニウム粉末を用いた場合、添加剤として炭酸塩、硝酸塩又は酸化物を用いた場合が記載されている。

(3)  本願発明と先願発明とを対比すると、両者の一致点、見かけ上の相違点(以下、単に「相違点」という。)は、次のとおりである。

一致点

窒化アルミニウムを主成分とし、これにイットリウム、ランタン、プロセオジウム、ネオジウム、サマリウム、ガドリニウム、ジスプロシウムから選ばれる希土類元素の酸化物もしくは炭酸塩の1種以上を添加した原料を成形、焼成することによる、酸素を3.5重量%以下含有する窒化アルミニウム焼結体の製造方法。

相違点

<1> 本願発明においては原料窒化アルミニウムの酸素含有量を1重量%以下と限定しているのに対して、先願発明においては酸素含有量の具体的な限定がない点。

<2> 本願発明においては添加剤の量を希土類元素換算で0.01~15重量%と限定しているのに対して、先願発明においては酸化物に換算して0.02~5.0重量%と限定している点。

<3> 本願発明においては得られる焼結体の性質を高熱伝導体と規定しているのに対して、先願発明においては熱的性質の限定がない点。

<4> 先願発明においては不可避的に混入する陽イオン不純物量を金属として0.5重量%以下と限定しているのに対して、本願発明においては不純物の量の限定がない点。

<5> 先願発明においては密度を3.0g/cm3以上と限定しているのに対して、本願発明においては密度の限定がない点。

(4)  そこで、前記相違点について、検討する。

相違点<1>について

先願発明においては、原料窒化アルミニウムについて酸素含有量の限定はないが、窒化アルミニウムの粉末の酸素含有量は4.5重量%以下と限定されているので、原料窒化アルミニウムと添加剤の混合物の酸素含有量も4.5重量%以下であり、したがって、添加剤の酸素含有量を考慮すると、原料窒化アルミニウムの酸素含有量は4.5重量%より少ないことは明らかである。また、先願明細書には、「窒化アルミニウムの焼結体は高い熱伝導性、耐食性、高強度などの特性を有しているため各種高温材料として注目されている物質である。しかし窒化アルミニウム焼結体は従来その原料粉末となる窒化アルミニウム粉末を高純度、微粉末の状態で調製することが困難であり特に低酸素含有の微粉末のものが得られなかったため、焼結体の物性は窒化アルミニウム本来の性質を十分反映したものではなかった。」(先願公報1頁右下欄15行ないし2頁左上欄3行)、「本発明者等は高純度窒化アルミニウム粉体とその焼結体について鋭意研究した結果、従来不可能とされていた超微粉末で酸素含有量の少い高純度粉末を製造することに成功した。そしてこの粉末を原料とする焼結体は従来知られていない全く新しい焼結体となることを確認し、既に提案した。本発明者らは、さらに窒化アルミニウム焼結体の研究を重ねた結果、特定の金属の化合物を一成分として含む窒化アルミニウム焼結体は、焼結性にすぐれ、透光性を付与出来ることを確認し、本発明を完成するに至った。」(同2頁右上欄16行ないし左下欄7行)との記載があることから、先願発明において用いる原料たる窒化アルミニウムの酸素含有量は非常に少ないものであると解される。そして、実施例において、具体的に酸素含有量1.1重量%のものが用いられていること、1重量%以下という数値に臨界的意義も認められないことからみて、先願発明は、4.5重量%以下の内、含有量の特に小さい1重量%以下のものを用いる場合を包含するものと解するのが妥当である。

相違点<2>について

先願発明における酸化物に換算して0.02~5.0重量%の添加剤ということは、例えばイットリウム酸化物(Y2O3)0.02~5重量%をイットリウム元素に換算すると0.016~3.9重量%となるように、希土類元素に換算して0.01~15重量%という範囲と重複するものであるから、この点において本願発明は先願発明と一致している。

相違点<3>について

本願発明における「高熱伝導性」なる限定は相対的なものであって不明瞭なものであるが、発明の詳細な説明の項を参照すると、熱伝導度40W/m.K以上程度のものを指すと解されるところ、先願発明の焼結体は優れた熱的性質を有することが記載されており(先願公報7頁右下欄5行)、実施例において示されている熱的性質である熱伝導率はすべて40W/m.K以上であるから、先願発明の焼結体も高熱伝導性を示すのものであり、この点において本願発明と相違しない。

相違点<4>について

先願発明においては、熱的性質等に加えて、不純物の量をコントロールすることにより、透光性の焼結体を得るために陽イオン不純物を金属として0.5重量%以下と限定しているものであり、本願発明においてその限定がないことは、0.5重量%以下のものも、そうでないものも、すなわち、透光性のものも、そうでないものも含有することを示しているから、この点においても両者が相違しているものということができない。

相違点<5>について

本願発明においては密度が3.0g/cm3以上であるという限定はないが、実施例において記載されている密度はすべて3.0g/cm3以上であるから、この点においても本願発明は先願発明と相違しない。

以上のとおりであるから、本願発明は、先願発明と同一であると認められ、しかも、本願発明の発明者が先願発明の発明者と同一であるとも、また本願の出願時にその出願人が上記先願の出願人と同一であるとも認められないので、本願発明は、特許法29条の2第1項の規定により特許を受けることができない。

4  審決の取消事由

先願明細書に審決認定の技術事項が記載されていることは認めるが、審決は、本願発明と先願発明との一致点の認定を誤り、かつ両発明の相違点<1>、<3>及び<4>の判断を誤り、その結果本願発明は先願発明と同一であるとしたものであるから、違法であって、取り消されるべきである。

(1)  一致点の認定の誤り

審決は、先願明細書には、「実施例として酸素含有量が1.1又は1.3重量%の窒化アルミニウムに添加剤を混合して、得られた窒化アルミニウム粉末を用いた場合、添加剤として炭酸塩、硝酸塩又は酸化物を用いた場合が記載されている。」との認定に基づき、本願発明と先願発明とは、「窒化アルミニウムを主成分とし、これにイットリウム、ランタン、プロセオジウム、ネオジウム、サマリウム、ガドリニウム、ジスプロシウムから選ばれる希土類元素の酸化物もしくは炭酸塩の1種以上を添加した原料を成形、焼成することによる、酸素を3.5重量%以下含有する窒化アルミニウム焼結体の製造方法」の点で一致する、と認定した。

しかしながら、先願明細書には、酸素含有量が1.1重量%の窒化アルミニウム粉末にイットリウム、ランタン及びネオジウムの硝酸塩の六水化物からなる添加剤を用いた実施例2、4が記載されているが、イットリウム、ランタン及びネオジウムの酸化物又は炭酸塩を用いることについては記載されていない。また、先願明細書には、1.3重量%の窒化アルミニウム粉末にバリウムの硝酸塩の二水化物からなる添加剤を用いた実施例9も記載されているが、本願発明において具体的に列挙された希土類元素の酸化物もしくは炭酸塩を用いることについては記載されていない。

先願明細書の実施例2、4の方法では、かえって窒化アルミニウムを酸化させてしまうという問題があり、本願発明は特定の希土類元素の酸化物もしくは炭酸塩を添加剤として用いた場合にのみその作用効果を発揮できるのである。

被告は、本願当初明細書において、希土類元素含有物質として、酸化物、炭酸塩、硝酸塩を均等に列挙し、実施例としては酸化物のみで代表させたことは、本出願前当業者が窒化アルミニウム焼結体の添加剤として、それらのものを均等のものと認識していたことを裏付けるものである旨主張するが、均等列挙の点は補正により是正されており、また、酸化物のみを実施例で示したのは、本出願当時希土類元素の炭酸塩は周知であり、使用態様の点でも効果の点でも酸化物と置換可能性が認められていたからである。

したがって、審決の前記一致点の認定は誤りである。

(2)  相違点<1>についての判断の誤り

審決は、前記相違点について判断するに当たり、本願発明において原料窒化アルミニウムの酸素含有量を1重量%以下と限定した点について、<a>「先願明細書の実施例において、具体的に酸素含有量1.1重量%のものが用いられていること」<b>「1重量%以下という数値に臨界的意義も認められないこと」からみて、「先願発明は4.5重量%以下の内、含有量の特に小さい1重量%以下のものを用いる場合を包含する」と判断している。

しかしながら、先願明細書には、相当数の実施例について窒化アルミニウム粉末の酸素含有量が示されているが、実施例1ないし4は1.1重量%、実施例5ないし7は2.1重量%、実施例8、9は1.3重量%、実施例10ないし12は1.5重量%の酸素含有量の窒化アルミニウム粉末を使用しており、さらに、「本発明者等は高純度窒化アルミニウム粉体とその燒結体について鋭意研究した結果、従来不可能とされていた超微粉末で酸素含有量の少い高純度粉末を製造することに成功した。」(先願公報2頁右上欄16行ないし19行)と記載されているから、先願明細書が開示する酸素含有量の範囲は1.1ないし2.1重量%であって、1.1重量%が先願発明において製造可能な限界低酸素含有量であるから、それが本願発明の酸素含有量の上限の1重量%と数値的に僅かな違いであっても、先願明細書には酸素含有量1重量%以下のものは開示されているとはいえない。

また、被告は、先願明細書(先願公報)の7頁左下欄12ないし20行の記載を引用して、先願明細書は、原料粉末中の酸素量として0.6重量%程度まで認識していたと主張するが、上記記載中の残存酸素含有量0.3~0.7重量%は窒化アルミニウム粉末中の酸素のほか、酸化イットリウム等の焼結助剤の酸素を含んでおり、これを単純に二倍すれば、窒化アルミニウム原料粉末の残存酸素含有量になる値ではなく、焼結時に焼結体に影響を及ぼす焼結方法、条件も考慮されていないから、出発原料の酸素含有量を求める根拠となるものではない。

したがって、「先願明細書の実施例において、具体的に酸素含有量1.1重量%のものが用いられていること」を理由として、「先願発明は、4.5重量%以下の内、含有量の特に小さい1重量%以下のものを用いる場合を包含するものと解する」とした審決の判断は誤りである。

また、酸素含有量を異にする窒化アルミニウム粉末にY2O3を添加量を変えて添加した原料混合物を成形、燒結して得た窒化アルミニウム原料粉末中の酸素含有量が1重量%より少なくなるあたりから熱伝導率が急激に高くなる。この熱伝導率の向上作用は、添加剤の添加量によっても影響を受けるが、添加剤の最適添加量にはピーク値が存在しており、したがつて、本願発明の作用効果は単純な焼結体中の酸素含有量によるものではない。

これに対し、先願発明では焼結体中の酸素含有量が透光性と相関関係を有するとされているが、このような本願発明の窒化アルミニウム粉末中の低酸素含有量による作用効果と異質のものである。

被告は、本願明細書の記載、特に第1表をみても、窒化アルミニウム原料粉末中の酸素含有量が1重量%より少なくなるあたりから、焼結体の熱伝導率が急激に高くなるということはできないし、先願発明においても、焼結体中の酸素含有量のみならず、原料粉末中の酸素含有量が少ないことが望まれている旨主張するが、実質的に助剤を含まない窒化アルミニウム焼結体において酸素濃度が1重量%あたりから熱伝導率が急激に上昇することは本出願当時公知であり(マイクロエレクトロニクスパッケージングハンドブック(甲第15号証)の397頁の図7-31参照)、また、加曽利光男作成のグラフのデータ(甲第24号証。このデータは、J. Phys. Chem. Sulids, Vol. 34, 323頁の第6図、J. Am. Ceram. Soc. Vol. 75, 3221頁の第10図、及び同Vol. 71, 590頁の第7図掲載の各データを読み取ったもの)は、酸素濃度が1重量%より低いC点に、酸素濃度と熱伝導度の関係が変わる特異な点が存在することを示している。本願発明はこのような熱伝導率の改善を酸素含有量1重量%以下の窒化アルミニウムと特定の焼結助剤を使用した酸素トラップ効果を用いて実現した点に特徴があり、透光性改善のために粒界に酸化物相のトラップをなくすようにした先願発明とは本質的に相違する。

したがって、<b>「1重量%以下という数値に臨界的意義も認められないこと」を理由として、「先願発明は、4.5重量%以下の内、含有量の特に小さい1重量%以下のものを用いる場合を包含するものと解する」とした審決の判断は誤りである。

(3)  相違点<3>についての判断の誤り

審決は、前記相違点<3>について判断するに当たり、「本願発明における『高熱伝導性』なる限定は相対的なものであって不明瞭なものであるが、発明の詳細な説明の項を参照すると、熱伝導度40W/m.K以上程度のものを指すと解される」との判断を前提として、「先願発明の焼結体も高熱伝導性を示すのものであり、この点において本願発明と相違しない。」と判断している。

しかしながら、本願発明における「高熱伝導性」とは、単に「熱伝導率の値」が高いだけを意味するものではなく、焼結性が高く、緻密で、しかも、窒化アルミニウム焼結体本来の特性である耐熱性、高強度を保持した状態で、なお高い熱導電率を有することを意味する。このことは、本願明細書に、「前記希土類元素の酸化物もしくは炭酸塩の添加量を限定した理由はその量を希土類元素換算で0.01重量%未満にすると焼結性の高い緻密なA1N焼結体が得られなくなり、かといってその量が同換算で15重量%を越えると原料粉末中のA1N粉末の絶対量が少なくなり、A1N焼結体本来の特性である耐熱性、高強度性が損われるばかりか、高熱伝導性も低下させるからである。」(昭和62年12月24日付手続補正書(以下、「訂正明細書」という。)5頁8行ないし15行)と記載されていることから明らかである。

一般に、焼結助剤の量を多くすると焼結性が高くなる反面、相対的に窒化アルミニウムの存在比率が低下して熱伝導率が低下することを考慮すると、本願発明における高熱伝導性は、焼結助剤の量を同じにして(焼結条件も同一にして)比較した場合に、他より高い熱伝導性を示すものであり、熱伝導率40W/m.Kを高熱伝導性か否かの境界としたものではない。

したがって、審決の前記判断は誤りである。

(4)  相違点<4>についての判断の誤り

審決は、相違点<4>について判断するに当たり、「先願発明においては、熱的性質等に加えて、不純物の量をコントロールすることにより、透光性の焼結体を得るために陽イオン不純物を金属として0.5重量%以下と限定しているものであり、本願発明においてその限定がないことは、0.5重量%以下のものも(中略)含有している」から、「この点において両者が相違しているものということができない」と判断している。

しかしながら、先願発明が陽イオン不純物を金属として0.5重量%以下と限定しているのは、先願発明が透光性という性質を有する窒化アルミニウム焼結体を得る発明であることによるものであって、先願発明を特徴付ける重要な構成要件である。このことは、先願明細書に、「本発明者等は高純度窒化アルミニウム粉体とその焼結体について鋭意研究した結果、従来不可能とされていた超微粉末で酸素含有量の少い高純度粉末を製造することに成功した。そしてこの粉末を原料とする焼結体は従来知られていない全く新しい焼結体となることを確認し、既に提案した。本発明者らは、さらに窒化アルミニウム焼結体の研究を重ねた結果、特定の金属の化合物を一成分として含む窒化アルミニウム焼結体は、焼結性にすぐれ、透光性を付与出来ることを確認し、本発明を完成するに至った。」(先願公報2頁右上欄16行ないし左下欄7行)との記載があることからも明らかである。

これに対し、本願発明においては、発明を定義する上で、陽イオン不純物の限定は全く不要であり、この点で本願発明と先願発明とは技術的思想として別異のものであることを示すものである。

したがって、審決の前記判断は誤りである。

第3  請求の原因に対する認否及び被告の主張

1  請求の原因1ないし3は認める。同4は争う。審決の認定判断は正当であって、審決に原告主張の違法は存しない。

2(1)  一致点の認定について

先願明細書には、イットリウム、ランタン、プロセオジウム、ネオジウム、サマリウム、ジスプロシウムの酸化物もしくは炭酸塩を用いる実施例はない。しかしながら、先願明細書には、先願発明において用いる添加剤が例示されており(先願公報3頁右上欄末行ないし右下欄1行)、その元素として、アルカリ土類金属、イットリウム及びランタン族金属が、そしてランタン族金属としては、特に工業的にランタン、セシウム、プロセオジウム、ネオジウム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、ジスプロシウム等が好適に使用されることが記載され、実施例として、イットリウム及びランタン族金属として、ランタン、ネオジウム、セリウムを用いた場合が、また、化合物として酸化物、炭酸塩、及び硝酸塩の例が記載されている以上、先願明細書には、イットリウム、ランタン、プロセオジウム、ネオジウム、サマリウム、ジスプロシウムの酸化物もしくは炭酸塩を用いる発明が記載されているというべきである。

原告は、本願発明は特定の希土類元素の酸化物もしくは炭酸塩を添加剤として用いた場合にのみその作用効果を発揮できる旨主張するが、本願当初明細書において、希土類元素含有物質として、酸化物、炭酸塩、硝酸塩を均等に列挙し、実施例としては酸化物のみで代表させたことは、本出願前当業者が窒化アルミニウム焼結体の添加剤として、それらのものを均等のものと認識していたことを裏付けるものであり、この点からも、先願明細書には、前記イットリウム等の酸化物もしくは炭酸塩を用いる発明が記載されていたということができる。

したがつて、審決の一致点の認定に誤りはない。

(2)  相違点<1>の判断について

先願発明においては、酸素含有量が少なくとも4.5重量%以下で従来使用されていたものより酸素含有量の小さい窒化アルミニウム粉末を用いるという技術的思想があり、実施例記載のものに限定されないから、先願明細書には、1重量%以下であって、1.1重量%に近い部分は記載されているというべきである。さらに、先願明細書には、「窒化アルミニウム焼結体中の酸素含有量については一般に原料窒化アルミニウム粉末を加圧焼結して高密度化した場合には原料粉末中の酸素量が焼結後1/2~1/3程度になることが知られている。本発明の窒化アルミニウム焼結体についても種々の条件で焼結したものの酸素含有量を調べた結果、原料粉末中の酸素量の1/2~1/3が焼結体中に残存し、その量は一般に0.3~0.7重量%である。」(先願公報7頁左下欄12ないし20行)と記載されていることからすれば、先願明細書は、原料粉末中の酸素量として0.6重量%程度まで認識していたということができる。

したがって、「先願明細書の実施例において、具体的に酸素含有量1.1重量%のものが用いられていること」を理由として、「先願発明は、4.5重量%以下の内、含有量の特に小さい1重量%以下のものを用いる場合を包含するものと解する」とした審決の判断に誤りはない。

また、本願明細書の記載、特に第1表をみても、窒化アルミニウム原料粉末中の酸素含有量が1重量%より少なくなるあたりから、焼結体の熱伝導率が急激に高くなるということはできないし、先願発明においても、焼結体中の酸素含有量のみならず、原料粉末中の酸素含有量が少ないことが望まれている。この点について、原告が引用する甲第21ないし第23号証は、いずれもセラミック(焼結体)の酸素含有量と熱伝導性の関係についてのものであって、焼結体の原料窒化アルミニウム粉末中の酸素含有量と熱伝導性の関係についてのものではない。

したがって、本願発明において原料窒化アルミニウムの酸素含有量を1重量%以下と限定した点について、「1重量%以下という数値に臨界的意義も認められない」ことを理由として、「先願発明は、4.5重量%以下の内、含有量の特に小さい1重量%以下のものを用いる場合を包含するものと解する」とした審決の判断に誤りはない。

なお、本願当初明細書には、窒化アルミニウム焼結体の酸素含有量を0.01~20重量%にすることが記載されているだけで、焼結前の窒化アルミニウムの酸素含有量については何ら記載がなく、ただ実施例に酸素含有量3重量%と1重量%の窒化アルミニウムを用いた場合が記載されていたにすぎない。原告が主張するように、1重量%以下であることに臨界的意義があるとすれば、本願の昭和62年12月24日付、平成1年7月27日付、平成2年11月2日付手続補正書による補正はいずれも却下されることになり、窒化アルミニウムの酸素含有量についての限定はないことになる。

(3)  相違点<3>の判断について

原告が引用する訂正明細書の5頁8行ないし15行は、燒結性が高く緻密であること、耐熱性、高強度性、高熱伝導性をそれぞれ別個の性質として捉えており、本願発明における高熱伝導性が高く緻密で、しかも、窒化アルミニウム焼結体本来の特性である耐熱性、高強度を保持した状態で、なお高い熱導電率を有することを意味するとは到底いえない。

また、原告は、本願発明における高熱伝導性は、焼結助剤の量を同じにして(焼結条件も同一にして)比較した場合に他より高い熱伝導性を示すことを意味する旨主張するが、本願明細書にはそのような記載はなく、せいぜい熱伝導度40W/m.K以上程度のものと解されるところ、先願明細書によれば、先願発明の目的の一つは高熱伝導性の焼結体を得ることであり、実施例に示されている熱伝導度はすべて40W/m.K以上であるから、先願発明の焼結体も本願発明と変わらない。

したがって、相違点<3>についての審決の判断に誤りはない。

(4)  相違点<4>の判断について

先願発明は、先願明細書に、「窒化アルミニウムの焼結体は高い熱伝導性、耐食性、高強度などの特性を有しているため各種高温材料として注目されている物質である。」(先願1頁右下欄15行ないし17行)と記載されているように、高熱伝導性を備えている。先願発明は、高熱伝導性という限定に加え、さらに透光性にするために不純物の量を限定するのであって、不純物の量を限定しない焼結体が高熱伝導性であることは先願明細書に示されている。

したがって、相違点<4>についての審決の判断に誤りはない。

第4  証拠関係

証拠関係は、本記録中の書証目録記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

理由

第1  請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、同2(本願発明の要旨)、同3(審決の理由の要点)の各事実は、当事者間に争いがない。

第2  成立に争いのない甲第2号証の4(訂正明細書)及び同号証の5(平成1年7月27日付手続補正書)によれば、本願明細書には、本願発明の技術的課題(目的)、構成及び作用効果について、次のとおり記載されていることが認められる。

1  本願発明は、高熱伝導性窒化アルミニウム焼結体の製造方法に関する。

窒化アルミニウムは、常温から高温までの強度が高く、化学的耐性にも優れているため、耐熱材料として用いられる一方、その高熱伝導性、高電気絶縁性を利用して半導体装置の放熱板材料としても有望視されている。

こうした窒化アルミニウム焼結体は、従来、ホットプレス法又は常圧焼結法により製造されてきたが、ホットプレス法では、複雑な焼結体の製造が難しく、しかも生産性が低く、高コストとなるという問題があり、常圧焼結法では、得られた窒化アルミニウム焼結体は窒化アルミニウムの理論熱伝導率(320W/m.K)に比べて著しく低く、良好な高熱伝導性を有するものでないという問題点があった(訂正明細書2頁4行ないし3頁13行)。

2  本願発明は、上記従来の問題点を解決するため、特許請求の範囲記載の構成(平成1年7月27日付手続補正書2頁2行ないし末行)を採用した(訂正明細書3頁15行ないし末行)。

3  本願発明は、従来法で製造された助剤が添加された窒化アルミニウム焼結体の低熱伝導性について検討した結果、焼結性を高めて緻密な窒化アルミニウム焼結体を得るためには、酸素が必要であるが、その量が多くなると高熱伝導性の阻害要因になることを究明し、酸素を1重量%以下含む窒化アルミニウム粉末に特定の希土類元素の酸化物もしくは炭酸塩の1種以上を希土類元素換算で0.01~15重量%添加した原料を成形、焼結して所定の酸素を含む焼結体とすることにより、熱伝導率が40W/m.K以上の高熱伝導性窒化アルミニウム焼結体を製造できることを見出し(訂正明細書7頁2行ないし17行)、高密度で熱伝導率が40W/m.K以上を示し、半導体装置の放熱板等に有効な高熱伝導性窒化アルミニウム焼結体の製造方法を提供するものである(同14頁15行ないし18行)。

第3  そこで、原告主張の審決の取消事由について、検討する。

1  一致点の認定について

原告は、先願明細書には本願発明において具体的に列挙された希土類元素の酸化物もしくは炭酸塩を用いることについて記載されていないのに、本願発明と先願発明とは、「窒化アルミニウムを主成分とし、これにイットリウム、ランタン、プロセオジウム、ネオジウム、サマリウム、ガドリニウム、ジスプロシウムから選ばれる希土類元素の酸化物もしくは炭酸塩の1種以上を添加した原料を成形、焼成することによる、酸素を3.5重量%以下含有する窒化アルミニウム焼結体の製造方法」の点で一致する、とした審決の認定は誤りである旨主張する。

成立に争いのない甲第4号証(先願公報)によれば、先願明細書の特許請求の範囲には、先願発明において用いる添加剤について、「アルカリ土類金属、イットリウム及びランタン族金属よりなる群から選ばれた少くとも1種の金属原子の化合物よりなる焼結助剤」とのみ記載され、「金属」部分については、上記特定の金属に限定されているが、「化合物」部分については、これを限定する記載は存しない。

そこで、先願明細書の記載内容を検討すると、前掲甲第4号証によれば、その発明の詳細な説明には、「本発明で使用する前記添加剤はアルカリ土類金属、イットリウム及びランタン族金属よりなる群から選ばれた少くとも1種の金属の化合物よりなる添加剤である。該アルカリ土類金属は特に限定されずベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム及びバリウムが使用出来る。上記金属成分のうちベリリウム及びマグネシウムは上記他のアルカリ土類金属成分に比べると透光性を付与するための添加剤としての性能が劣る場合がある。従って工業的には、カルシウム、ストロンチウム及びバリウムを使用するのが好適である。また上記ランタン族金属は特に限定されず使用出来る。例えばランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメシウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユーロビウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)(中略)が好適に使用出来る。特に工業的にはLa、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Dy等が好適に使用される。」(先願公報3頁右上欄20行ないし右下欄1行)と記載され、さらに、実施例1にCa(NO3)2・4H2O(アルカリ土類金属化合物)、同2にCaO、Ba(NO3)2、Sr(NO3)2、BeO(以上、アルカリ土類金属化合物)、La(NO3)3・6H2O、Nd(NO3)3・6H2O、CeO2(以上、ランタン族金属化合物)、Y(NO3)3・6H2O、同3にCa(NO3)2・4H2O(アルカリ土類金属化合物)、同4にCaCO3、Ba(NO3)2、(以上、アルカリ土類金属化合物)、La(NO3)3・6H2O、CeO2(以上、ランタン族金属化合物)、Y(NO3)3・6H2O、同6にY(NO3)3・6H2O、同7にCa(NO3)2・4H2O(アルカリ土類金属化合物)、同9にBa(NO3)2(アルカリ土類金属化合物)、同10にCaCO3(アルカリ土類金属化合物)が記載されていることが認められる。

上記記載事項によれば、先願明細書には、原告主張のように本願発明において具体的に列挙された希土類元素の酸化物もしくは炭酸塩を用いる旨の直接的記載はない。しかしながら、先願明細書には、実施例2として典型的なアルカリ土類金属であるカルシウムの酸化物(CaO)とともに本願発明において用いられるイットリウム(Y)、ランタン(La)及びネオジウム(Nd)の硝酸塩(NO3)が、また実施例4としてカルシウムの炭酸塩(CaCO3)とともにイットリウム、ランタン及びネオジウムの硝酸塩が記載されており、このように1実施例中に酸化物と硝酸塩、もしくは炭酸塩と硝酸塩とが列挙されているということは、先願発明では金属の種類に拘わらず金属化合物としての酸化物、炭酸塩及び硝酸塩については特に区別して認識されていないことが明らかである。しかも、先願明細書の記載事項を検討しても、先願発明がイットリウム、ランタン及びネオジウムの酸化物及び炭酸塩を排除しているとはいえない。

さらに、本出願当時の技術水準をみると、成立に争いのない乙第2号証によれば、発明の名称を「窒化アルミニウム焼結体の製造方法」とする昭和50年特許出願公開第23411号公報には、従来技術として、「A1N粉末に酸化イットリウム(Y2O3)や酸化ランタン(La2O5)等希土類元素の酸化物を添加して焼結することも試みられており、かなり良質の焼結体が得られている。」(1頁右下欄9行ないし13行)と記載されていることが認められ、このことは、本件出願当時当業者に広く知られていたということができる。

そうであれば、本出願当時の技術水準を背景として先願明細書をみた場合、先願明細書の上記記載事項に照らし、当業者は、先願明細書には、イットリウム、ランタン及びネオジウムの酸化物又は炭酸塩、少なくともそれらの酸化物は実質的に記載されていると認識するものというべきである。

したがって、本願発明と先願発明とは、「窒化アルミニウムを主成分とし、これにイットリウム、ランタン、プロセオジウム・ネオジウム、サマリウム、ガドリニウム、ジスプロシウムから選ばれる希土類元素の酸化物もしくは炭酸塩の1種以上を添加した原料を成形、焼成することによる、酸素を3.5重量%以下含有する窒化アルミニウム焼結体の製造方法」の点で一致する、とした審決の認定に誤りはない。

2  相違点<1>の判断について

原告は、本願発明において原料窒化アルミニウムの酸素含有量を1重量%以下と限定した点について、<a>「先願明細書の実施例において、具体的に酸素含有量1.1重量%のものが用いられていること」<b>「1重量%以下という数値に臨界的意義も認められないこと」を理由として「先願発明は4.5重量%以下の内、含有量の特に小さい1重量%以下のものを用いる場合を包含する」とした審決の判断は誤りである旨主張する。

先願明細書に審決認定の技術事項が記載されていることは当事者間に争いがなく、また、前掲甲第4号証によれば、先願明細書には、「窒化アルミニウム焼結体中の酸素含有量については一般に原料窒化アルミニウム粉末を加圧焼結して高密度化した場合には原料粉末中の酸素量が焼結後1/2~1/3程度になることが知られている。本発明の窒化アルミニウム焼結体についても種々の条件で焼結したものの酸素含有量を調べた結果、原料粉末中の酸素量の1/2~1/3が焼結体中に残存し、その量は一般に0.3~0.7%である。」(先願公報7頁左下欄12ないし20行)と記載されていることが認められる。

上記記載事項に基づいて、先願発明における原料粉末中の酸素含有量を計算すると、焼結後に1/2~1/3になるということは、原料粉末にはその2倍又は3倍の酸素量が存在することを意味するから、2×0.3=0.6重量%(最小量)3×0.7=2.1重量%(最大量)となり、原料粉末中には0.6ないし2.1重量%の酸素量が含まれていたことになる。そして、この数値は、「実施例において、具体的に酸素含有量1.1重量%のものが用いられている」との審決の前記認定と一致する。

したがって、「先願発明は4.5重量%以下の内、含有量の特に小さい1重量%以下のものを用いる場合を包含する」とした審決の判断に誤りはない。

この点について、原告は、上記記載中の残存酸素含有量0.3~0.7重量%は窒化アルミニウム粉末中の酸素のほか、酸化イットリウム等の焼結助剤の酸素を含んでおり、これを単純に二倍すれば、窒化アルミニウム原料粉末の残存酸素含有量になる値ではなく、焼結時に焼結体に影響を及ぼす燒結方法、条件も考慮されていないから、出発原料の酸素含有量を求める根拠となるものではない旨主張する。

しかしながら、原告が主張するように、上記数値が酸素のほか酸化イットリウム等の焼結助剤の酸素を含む焼結体に含まれる酸素量であるとすれば、これら焼結助剤中の酸素分を差し引くと窒化アルミニウム粉末中の酸素含有量は0.3~0.7重量%よりさらに少なくなるはずであり、このことを理由に審決の前記判断を誤りとすることはできない。また、先願明細書が1/2~1/3と幅を持たせていることは、焼結方法や焼結条件により焼結体中の酸素量が影響を受けることを考慮しているからにほかならず、この点の原告の主張も理由がない。

また、原告は、先願明細書が開示する酸素含有量の範囲は1.1ないし2.1重量%であって、1.1重量%が先願発明において製造可能な限界低酸素含有量であるから、先願明細書には酸素含有量1重量%以下のものは開示されているとはいえない旨主張するが、1.1ないし2.1重量%という酸素含有量の範囲は、原告が先願明細書の実施例の記載から算出したものであり、前掲甲第4号証により先願明細書の記載内容を検討しても、先願発明において、酸素含有量を原告主張の範囲に限定しているとも、1.1重量%以下の酸素含有量を排除しているとも認められないから、原告の主張は理由がない。

さらに、原告は、本願発明は熱伝導率の改善を酸素含有量1重量%以下の窒化アルミニウムと特定の焼結助剤を使用した酸素トラップ効果を用いて実現した点に特徴があり、透光性改善のために粒界に酸化物相のトラップをなくすようにした先願発明とは本質的に相違するから、「1重量%以下という数値に臨界的意義も認められないこと」を理由として、「先願発明は、4.5重量%以下の内、含有量の特に小さい1重量%以下のものを用いる場合を包含するものと解する」とした審決の判断は誤りである、と主張する。

しかしながら、本願発明と先願発明とは、「窒化アルミニウムを主成分とし、これにイットリウム、ランタン、プロセオジウム、ネオジウム、サマリウム、ガドリニウム、ジスプロシウムから選ばれる希土類元素の酸化物もしくは炭酸塩の1種以上を添加した原料を成形、焼成することによる、酸素を3.5重量%以下含有する窒化アルミニウム焼結体の製造方法」の点で一致するものであり、かつ先願発明は、酸素含有量1重量%以下のものを用いる場合を含むこと前述のとおりであるから、この構成から生じる作用効果に差異はなく、本願発明と先願発明とは本質的に相違するとはいえないから、原告の前記主張は採用できない。

したがって、相違点<1>の判断についての審決の判断に誤りはない。

3  相違点<3>の判断について

原告は、「本願発明における『高熱伝導性』なる限定は相対的なものであって不明瞭なものであるが、発明の詳細な説明の項を参照すると、熱伝導度40W/m.K以上程度のものを指すと解される」との判断を前提として、「先願発明の焼結体も高熱伝導性を示すのものであり、この点において本願発明と相違しない。」とした審決の判断は誤りであると主張し、その根拠として、本願発明における「高熱伝導性」とは、単に「熱伝導率の値」が高いだけを意味するものではなく、焼結性が高く、緻密で、しかも、窒化アルミニウム焼結体本来の特性である耐熱性、高強度を保持した状態で、なお高い熱導電率を有することを意味することを挙げている。

しかしながら、前掲甲第2号証の4及び同号証の5によれば、本願明細書中で具体的な数値による裏付けでもってその効果を開示しているのは、熱伝導性と密度についてだけであり、その他の特性については、それがどのくらい保持されているのか不明であり、原告の引用する訂正明細書の記載によっても明らかでない。

また、当事者間に争いのない先願明細書の記載事項によれば、本願発明の熱伝導性は、先願発明と同程度のものであることが明らかであるから、この点において、本願発明の奏する作用効果が先願発明に比べて特に優れているということはできない。

したがって、相違点<3>についての審決の判断に誤りはない。

4  相違点<4>の判断について

原告は、「先願発明においては、熱的性質等に加えて、不純物の量をコントロールすることにより、透光性の焼結体を得るために陽イオン不純物を金属として0.5重量%以下と限定しているものであり、本願発明においてその限定がないことは、0.5重量%以下のものも含有している」から、「この点において両者が相違しているものということができない」との審決の判断は、誤りである旨主張する。

しかしながら、前掲甲第4号証によれば、先願明細書には、「窒化アルミニウムの燒結体は高い熱伝導性、耐食性、高強度などの特性を有しているため各種高温材料として注目されている物質である。」(先願公報1頁右下欄15行ないし17行)、「本発明の窒化アルミニウム焼結体中の酸素含有量及び不可避的に混入する陽イオン不純物の量は、窒化アルミニウム焼結体の透光性に大きな影響を与える。」(同2頁右下欄1行ないし4行)、「本発明の窒化アルミニウム焼結体(中略)は優れた熱的性質、化学的性質、機械的性質を有し、また特に光学的特性(透光性)を備えた画期的な材料である。」(同7頁右下欄1行ないし7行)と記載され、また、実施例にその熱伝導率が42ないし79W/m.Kであることが記載されていることが認められる。

先願明細書の上記記載事項によれば、先願発明は、本願発明における熱伝導率を満足させるものであると同時に、「陽イオン不純物を金属として0.5重量%以下」と限定することにより透光性という性質をも有するものである。

原告は、本願発明においては、発明を定義する上で陽イオン不純物の限定は全く不要であり、この点で本願発明と先願発明とは技術的思想として別異のものである旨主張するが、本願発明は高熱伝導性という性質を有するのに対し、先願発明は高熱伝導性のほか透光性という性質を有するものであって、先願発明は陽イオン不純物の限定のない場合であっても本願発明と同じ高熱伝導性を有するのであるから、この点において両者は相違するものではない。

したがって、相違点<4>について、本願発明と先願発明とは相違しないとした審決の判断に誤りはない。

5  以上のとおりであるから、本願発明と先願発明とは同一であるとした審決の認定判断は正当であって、審決には原告主張の違法は存しない。

第4  よって、審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求は理由がないから、失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 関野杜滋子 裁判官 持本健司)

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